腰痛の80パーセント以上はこんな具合におこっています。
この時、暴走した背筋の強力なパワーで、こんな事態に陥ることがよくあります。
これが、ぎっくり腰など腰のトラブルの話題の中でよく耳にする『椎間板ヘルニア』という椎間軟骨の損傷です。(ヘルニアというのは、なにかが狭いところをニュルッと飛び出した状態です)
この『椎間板ヘルニア』には、デマや噂による誤解がいっぱいあります。
誤解をまとめると次の3点だと思います。
(1) 椎間板ヘルニアが腰の神経を刺激して鋭い腰の痛みがおこる
(2) 椎間板ヘルニアは手術をしないと治らない。手術をしても完全には治らない。
(3) 椎間板ヘルニアがあれば必ず腰痛がおこる。
これらの根源には『神経痛』というものに対する誤解があると思います。
神経痛の特徴は、傷害されている場所と実際に痛い場所が離れていることです。
たとえば肘の内側を打って小指に電気が走ったことはありませんか?
肘の内側には、尺骨神経という名前の神経が通っていて、この神経は小指に分布しています。この神経を打撲すると信号が発生して脳に伝えられます。脳はこの伝わってきた信号が小指から来た信号だと思うので、小指に電気が走ったように感じるのです。これが日常的に経験する神経痛の代表選手です。
神経痛とはキリッと鋭い痛みのことだと思っていたかたが多いと思いますが、それは間違いです。
ではハナシを椎間板に戻しましょう。
飛び出したヘルニアが傷害する神経は腰ではなく脚の神経です。
したがってヘルニアが起こっているのは腰(腰椎)ですが、痛いのは脚で腰ではありません。
次に手術のハナシをしましょう。ヘルニアの手術は脚のひどい神経痛(まともに歩けないほどの激痛)を治すのが目的です。この手術は腰椎に対するものですが、腰の痛みを取るためにおこなわれているのではありません。ところが『椎間板ヘルニア』と診断されたが最後「手術しないとその“腰痛”は治らない(絶望的)!」というようなハナシを聞いたことはありませんか?これは完全なデタラメです。簡単にふりまわされないようにしましょう。
では椎間板ヘルニアがあるとどうなるのでしょうか?
実は「大半の場合たいしたことはおこらない」というのが正解です。
というのもMRIという検査がひろまったので、まったく症状のない椎間板ヘルニアが非常にたくさんあるということがわかったからです。
また、ひどい神経痛を伴うヘルニアでも「手術をしなければいけない症例より日にち薬で治る症例の方がはるかに多い」ということもわかってきました。つまり椎間板ヘルニアはみなさんが思っているような怖い状態ではないのです。
これで椎間板ヘルニアが頑固な腰痛の原因ではないということがわかってもらえましたか?
しかしキツイぎっくり腰がヘルニアを起こすことはあると思います。実際にしょっちゅう遭遇する患者さんの経過は「ぎっくり腰が起こって1週間から10日ぐらいで脚のスネが痛くなってきた(ヘルニアによる脚の神経痛が起こった)」というものです。また一度ヘルニアができると通り道ができているので次のヘルニアは起こりやすくなります。つまり慢性的な腰痛がヘルニアを次から次へと再発させ続けることになります。脚のしびれをともなった張りや痛みなどの神経痛にサヨナラするためには、まず腰痛を止めなければなりません。